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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)4528号 判決 1994年10月28日

原告

藤井元紀

右訴訟代理人弁護士

近森土雄

被告

田中清

被告

藤井ウメ

右法定代理人後見人

田中清

右両名訴訟代理人弁護士

以呂免義雄

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告藤井ウメ(以下「被告ウメ」という。)が、平成元年一二月一八日、奈良地方法務局所属公証人黒瀬孝導作成同年八四九号公正証書によってなした遺言(以下「本件遺言」という。)が無効であることを確認する。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、被告ウメの養子で、被告ウメの唯一の相続人であり、被告田中清(以下「被告田中」という。)は、被告ウメの甥である。被告ウメは、平成五年三月一五日奈良家庭裁判所により禁治産の宣告を受け、被告田中が後見人に選任された。

2  被告ウメが平成元年一二月一八日に遺言をなしたとして本件遺言が作成されたが、右遺言の内容は、奈良市西登美ヶ丘所在の土地建物を被告田中に遺贈するというものであった。

3  本件遺言は、被告ウメの自宅で、夫藤井又五郎、証人阿波野豊、阿波野美佐江立会いのうえ、遺言者が遺言の趣旨を公証人黒瀬孝導に口授して作成されたとされている。

二  原告の請求

原告は、本件遺言は、被告ウメの意思能力が欠如した状態で作成され、かつ、公正証書遺言の方式に違反(被告ウメは遺言の趣旨を公証人に口授せず、公証人は筆記した内容を読み聞かせておらず、かつ、遺言者が筆記の正確なことを承認していない。)しているとして、遺言者である被告ウメの生存中に、被告ウメの遺言取消の可能性はないとして、本件遺言の無効確認を求めた。

三  争点

被告は、原告には遺言無効確認を求める利益がないとして、不適法であると主張するので、本件の争点は確認の利益の有無である。

第三  当裁判所の判断

一  確認の訴えは、即時確定の利益がある場合、換言すれば、現に、原告の有する権利または法律的地位に危険または不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許されるものである。

二  本件は、被告ウメのなした被告田中を受遺者とする本件遺言が無効であるとして、ウメの生存中に、ウメの推定相続人である原告が、右遺言が無効であることの確認を求めているものであるところ、本件において、原告が保護を求めている利益ないし地位は、遺言者が死亡したとき、本件遺言による遺贈に基づく法律関係がないという原告の利益ないし地位である。

ところで、遺贈は死因行為であり、遺言者の死亡によりはじめてその効果を発生するものであって、その生前においては何ら法律関係を発生させることはなく、受遺者において何らの権利も取得しない。のみならず、遺言は、遺言者において何時でもこれを取り消すことができるだけでなく、遺言発効当時、受遺者が必ずしも生存しているとはいえないから、原告の前記利益ないし地位は将来のものであり、かかる将来不定の利益ないし地位を現在保護する必要はなく、したがって、原告の有する権利または法律的地位に危険または不安が生じ、これを除去するため被告らに対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合であるとはいいえない。

その他本件において、原告が即時確定の利益を有するとは認められない。

三  よって、本件訴えは、訴えの利益がないから却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官將積良子 裁判官西口元 裁判官中桐圭一)

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